脳から身体を治す

今回ご紹介する書籍は、「脳から身体を治す」です。

 脳から身体を治す 世界のエリートは知っている最高の健康法 (朝日新書) 新書

久賀谷 亮著

この書籍は、TMS(Transcranial Magnetic Stimulation)という脳の磁気療法についての紹介が主な内容ですが、それに関連して脳の特性について触れられていますので、大変参考になります。

2015年にNHKで慢性腰痛を取り上げた番組がありましたが、原因不明の腰痛の真の原因が実は脳にあったという衝撃的な内容でした。

私も臨床の現場で、腰痛などの改善に、筋骨格系に重きを置いて施術していますが、難治性の腰痛の中には、この本で指摘しているような脳が原因となっているものもあるのではないかと考えさせられました。

人間の身体にとって脳は司令塔です。その中でも、身体を動かすことに関係する運動野が、痛みの調整に関わるといわれています。

痛みの長期化により、脳が条件付けされ、痛みが長く続くと、人は痛みに対して恐怖心や嫌悪感をもつようになります。

痛みの情報が脳へ送られると、脳は敏感になり、関わっている回路全体が変化していく。

脳はじわじわと変化する性質を持つ。これを脳の「可塑性」といいます。

可塑性とは、固体に外力を加えて変形させ、力を取り去っても、もとに戻らない性質のことをいいますが、脳の中でも痛みが続くことで、「痛みの回路」が出来てしまうのです。

電気回路も同じ事が起きるのです。通常電気は定められた回路の中だけ流れます。

しかし、その回路の一部に電気抵抗の低い部分があると、電気はそこから外に漏れてしまいます。漏電なども同じ原理です。

以前私が電気機器の故障修理を行っていたときの話です。ヒューズ切れを起こしていましたので、その原因を調べていました。ヒューズが頻繁に切れるということは、そこに通常流れる以上の、過電流が流れたということです。

テスターで絶縁抵抗を調べると、ほぼ、0Ω:オームで、絶縁されていない状態でした。その原因箇所を特定できた時に私はびっくりしました。

開閉スイッチの、絶縁版の上に、黒く焼け焦げたような一筋の跡を発見したのです。原因はこの絶縁版の上にホコリが積もり、そこを伝って電流がリークしてしまったのです。その際に、ホコリが炭化してそこに一つの「電気の通り道」が出来てしまいました。

人間の脳も、ある種の電気回路です。あまりにも強い刺激や、長期間にわたる刺激が続くと、脳が変化し、新たなる回路が出来上がってしまうのです。

いったん脳にこの様な回路が出来てしまうと、無限ループの様にそこに信号が流れ続けます。もしこれが痛みの感覚と結びついていたのなら、脳由来の痛みがいつまでも続いてしまうことになります。

脳はいったん覚えてしまったことは、それを忠実に繰り返すという、律儀な特性があります。脳の可塑性によってできた新たな回路を守り続けてしまうのです。これが痛みの慢性化につながります。

脳の可塑性などという厄介なものがなぜ存在するのでしょうか?

これは本来、自己を守り生存して行くために必須な機能だったと思います。

例えば、ジャングルで生活していた人間がいたとします。新天地を求めてジャングルの外に出たところ、草原でライオンに出くわし、命からがらジャングルに逃げ帰ってきました。

この時、脳内では、ジャングルの外に出たら危険という回路が出来上がります。一度、痛い思いをすると、その教訓を忘れず、二度と危険な目に合わないようにするためです。

これはよい事でもありますが、反面で悪い事でもあるのです。一度、大きな失敗をすると、次に何かにチャレンジすると、また痛い目に合うのではないかと考え、何もしないで安全圏(コンフォートゾーン)にとどまろうとします。

この具体例は、「ノミのサーカス」です。

ノミのサーカスとは、下の動画の様にノミにいろいろな芸をさせるのですが、そのノミたちが普段しまい込まれている箱の中は、狭いため、ノミが飛び上がろうとジャンプすると、箱のふたにぶつかってしまいます。

この様な環境に長く置くと、ノミは高くジャンプすることをあきらめ、ふたが無くても、箱の外に飛び出ることがなくなります。

脳の可塑性は、自分を守る意味でコンフォートゾーンにとどまらせようとする働きがありますが、何かを学ぶための新たなチャレンジには足かせとなってしまいます。慢性的な痛みの回路が出来て、その痛みに縛られ、何もできなくなってしまうのです。

脳の可塑性や、コンフォートゾーンを表した名言があります。

 為せば成る 為さねば成らぬ 成るわざを 成らぬと捨つる 人のはかなき

                            ~武田信玄~

この言葉は、米沢藩主の上杉鷹山が以下のようにリメイクしています。

 為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の 為さぬなけり

こちらの方が、世間では有名になっていますね。

コンフォートゾーンはある意味必要で、これがなければ人類は絶滅していたでしょう。

しかし、ここにとどまってばかりでは成長がありません。成長のためには、コンフォートゾーンから、ラーニング(学び)ゾーンに、一歩踏み出す勇気が必要です。

自己を守るための機能が、自己を苦しめてしまっている。これらの特性を持つ脳を整える方法については、また次回にお伝えします。

 

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