心も自律神経もゆらいでいる

最近ではスマホアプリなどでもストレスを測定することができますが、あれは何を測っているかご存知でしょうか?

答えは「ゆらぎ」です。自律神経の働きを反映する心拍のゆらぎなどを見ているのです。

そもそも健康な状態とは、「ゆらぎ」があるということです。安定しているとは状態が固定していることではありません。剛直なものは大きな衝撃を受けると折れたり崩れてしまいやすいですよね。

筋肉もゆらぎが無くなると、こり固まってしまいます。肩こりなどはその典型で、デスクワークなどで同じ姿勢が続くと自然なゆらぎが無くなり首や肩のこりが強くなってしまいます。

また、精神的なストレスが持続することで、心の柔軟性が失われると、自律神経の自然なゆらぎも失われ、結果として肩こりや頭痛などが生じます。

周りの変化に合わせ、適度なゆらぎをもって、しなやかに自らの状態を変え、一定の振れ幅の中で行ったり来たりを繰り返すことこそが、より健康的で自然な状態なのです。

ストレス曲線と陰陽

上のグラフは、カナダの内分泌学者ハンス・セリエ(Hans H.B.Selye、1907~1982)の唱えたストレス反応を示した曲線です。警告反応期は、ストレッサーによる身体の緊急反応の時期です。

更にストレスが続くと抵抗期に入ります。この時期は持続するストレッサーと抵抗力とが一定のバランスをとり、生体防衛反応が完成される時期です。

疲弊期では、適応エネルギーの消耗からストレッサーと抵抗力のバランスが崩れます。

この様にストレスに対して身体の抵抗力が上がったり下がったり「ゆらぎ」を起こしているのです。これは、「人間は自然の一部」であると考える老子の教えとも通ずるものがあると思います。

老子

道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生じる。
万物は陰を負(お)いて陽を抱(い)だき、沖気(ちゅうき)を以(も)って和を為(な)す。

この「道」とは、自然法則とも捉えることができます。自然のゆらぎに身を任せることが、心身ともに健康に生きる秘訣です。

また、老子は「無為自然(むいしぜん)」を唱えました。これは自然の流れに逆らわずに、時々刻々に変化する状況に自分を合わせ、適切な行動をとることを意味します。

現代人は、前に進むこと、上に登ることばかりを考えるのではなく、少し立ち止まることの重要性に気づき、自然な流れに身を任せることが大切ではないでしょうか。

能率・効率重視の現代のストレス

私たちを取り巻く環境は、スピードや能率・効率のみを重視し、常に何かに追いまくられているストレスがかかっており、交感神経優位の状態(バトルモード)になることが多く、うまく副交感神経優位の状態(休息モード)に切り替わることができなくなっています。

つまり、交感神経と副交感神経の健全なゆらぎが失われ、身体が交感神経側に入ったまま戻ってこれなくなったことこそが、現代人のストレス、慢性的な疲れの主な原因なのです。

よって、ストレスや疲れをとるには、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせるような休み方をする必要があります。

自律神経

自律神経には次のように二つの分類があります。

  • 交感神経=心身を活動的にさせる=車のアクセルのようなもの
  • 副交感神経=心身をリラックスさせる=車のブレーキのようなもの

しかし、副交感神経(迷走神経)が優位になることで、リラックスだけではなく、ときに凍りつきが起こったり、血圧低下や失神が起こったりするのは、いったいなぜでしょうか。

ここに疑問をもったのが、アメリカ合衆国の心理学者、神経科学者であるスティーブン・ポージェスです。

ポリヴェーガル理論

迷走神経

ポージェスは、副交感神経の8割を占める迷走神経に、「背側迷走神経」と「腹側迷走神経」という、まったく働きの異なる2種類が存在することを明らかにしました。

長らく、自律神経については、「交感神経優位の状態」と「副交感神経優位の状態」の2つのモードがあると考えられてきましたが、ポージェスの発見により、「自律神経のモードは3段階に分かれるのではないか」という説が生まれたのです。

ポージェスはこの説を「ポリヴェーガル理論」と名付けました。

3つのモード

自律神経3つのモード

ストレス反応には、従来の交感神経系の働きによって起こる戦うか逃げるかの「闘争-逃走」反応があります。これを「アッパー系ストレス反応」(炎のモード)と呼びます。

もう一つは、「ダウナー系ストレス反応」(氷のモード)というべきものです。これには、背側迷走神経が関わっており、体がだるい、活力や興味がわかなくてうつっぽくなる、感情がわかない、やたら眠い、ボーっとする、記憶が曖昧になる、失神などの反応があります。

自律神経の3つのモード

なお、これまで、「副交感神経が優位になると、心身がリラックス状態になる」といわれていましたが、ポリヴェーガル理論では、腹側迷走神経を中心とした神経のグループが優位になると、心身が安全・安心を感じ、リラックス状態になると考えられています。

解離とは

人は、自らの生命が脅かされるような大きなストレス状況では、「凍りつき状態」になってしまうのです。生物学的には、感覚を切り離して「死んだふり」をして身を守る作用があります。

多くの生き物は、死んだふりをすることで生きのびてきました。

しかし、ずっと解離していると、身体が死んだような状態になります。

死んだふりをする生き物

人間もこのような反応を起こすときがありますが、まずいのは、ゆらぎのリズムが失われ、この氷のモードから戻ってこれないことです。

「頑張ってもムダ」「抵抗してもムダ」ということを学ぶと、人はストレスに対して無抵抗になっていきます。このような状態を「学習性無力感」といいます。

ここで大切なことは、「背側系(氷のモード)に入っていることの必要性を理解し、その状態を積極的に肯定していくことです。氷のモードは悪者ではありません。危機をやり過ごして自らの身を守り、エネルギーを節約し、回復に向かうための必要なプロセスなのです。

コーピング

自分を助けて回復に導こうとするための行動を「コーピング」といいます。

自分の状態が交感神経過剰の炎のモードか、背側迷走神経過剰の氷のモードかを知ることが大切で、対処法は大きく2つに分かれます。

  • 「逆の方向」に入れるための行動(コーピング)
  • 「腹側迷走神経系(リラックスモード)」に入れるための行動(コーピング)

この2つは同時に行われることもあります。

「逆方向」へのアプローチとは、アッパー状態のときは、「落ち着かせるために」ダウナー方向のコーピングを、ダウナー状態にいるときは、「興奮させるような」アッパー方向のコーピングを、というのが基本方針です。

炎のモードから抜け出すには、次のようなものが考えられます。

  • ゆっくりした呼吸をする
  • ラベンダーなどの鎮静系のアロマを利用する
  • ハーブティーや漢方薬などを利用する
  • 心を落ち着かせるような、静かな曲を聴く
  • 温かい湯船につかる
  • 部屋を暗くする

一方、「氷のモード」から抜け出す方法としては、

  • 早めの呼吸をする
  • レモングラスなど覚醒系のアロマオイルを利用する
  • 運動や体操など、身体を動かして心拍数を高める
  • サウナや水風呂などで、身体に温度刺激を与える
  • エキサイトするようなゲームをしたり音楽を聴いたりする
  • 太陽の光を浴びる

ただし、氷のモードにも段階があり、ぐったりとして「どうしても動けない」「やる気が出ない」という人は、おそらく「シャットダウン」に入っており、簡単には氷のモードから抜け出すことができません。

そうした場合には、腹側迷走神経(リラックスモード)に入れていくアプローチが必要です。

リラックスモードのエクササイズ

仰向けで行うのが理想的ですが、椅子に座ったまま、もしくは立ったままでもかまいません。

  1. 左右の手の指を組みます
  2. 手を後頭部の後ろに置きます
  3. 頭を固定したまま、目だけを動かして右を見ます
  4. 目だけ右を見続けて30~60秒経つと、つばを飲み込みたくなったり、あくびが出たり、ため息が出たりします。
  5. 目を中央に戻し、まっすぐ前を見ます
  6. 頭を固定したまま、今度は目だけを動かして左を見ます
  7. 30~60秒経つと、つばを飲み込みたくなったり、あくびが出たり、ため息が出たりします。

1~7までを行った後、再び頭と首の可動域や痛み、こわばりなどを確認してみましょう。このエクササイズは副神経を刺激し、腹側系(リラックスモード)のシステム全体をアクティブにするアプローチです。

身体感覚を活性化する

グラウンディングとは、心理療法で用いられる「いま、ここの感覚」に戻ってくるための技術のことで、文字どおり「地に足がつく」感覚を目指していくものです。

たとえば、次のような方法があります。

  • 椅子に座って、座面に意識を集中する
  • 靴を脱いで、足の指の付け根のところで床を「ぐっ」と押し込んでみる
  • 木片や金属片などの硬いものを握りしめ、手ごたえを感じる
  • 毛皮やぬいぐるみなど、手触りがいいものを撫でる
  • 裸足で砂浜や土、芝生などの上を歩く(アースにもなる)

内受容感覚

身体の内側にしっかり注意を向けることで、私たちがいつも他人の視線や環境の変化など、自分の外のことばかりに気を取られている状態から、自分の内側に目を向ける機会を増やすのが目的です。

自分の頭のてっぺんから足の先までじっくりと自分の身体の内側に注意を向けてみましょう。「ここが緊張しているな」とか「ちょっと違和感を感じる」という部分があれば、そこにねぎらいの気持ちを向けてみてください。

その他にも、自分の心臓の鼓動を感じたり、水を飲んだ際に口から食道、胃へと流れてゆく内臓感覚を感じることも内受容感覚のトレーニングになります。

内受容感覚は、「過剰適応」から抜け出すヒントにもなります。私たちは社会の中で生き延びるために、必要な知識や常識、相手の表情など、あらゆる情報を読み取り、最適な自分を演じています。

ただし、これが過ぎると過剰適応になり自分を苦しめます。

滅私奉公

滅私奉公(めっしほうこう)とは、私利私欲を捨てて公のために尽くすことを意味する言葉です。封建制にに於いては「自分の命を捨ててでも、主人のために尽くす」生き方が推奨されてきました。

現代社会でも、会社に忠誠を尽くした結果の過労、サービス残業、休日出勤、有給休暇の未消化などが問題視されています。周りの環境に合わせようとし過ぎ、自分を殺して過剰適応になってしまうと、自分自身がわからなくなり、心も体もバランスを崩してしまいます。

ただし、ここでは「滅私奉公」の全てが悪いと言っているのではありませんし、その逆の個人主義を全肯定しているものでもありません。

中国の歴史家、司馬遷によって編纂された『史記』に「士は己を知る者の為に死す」という有名な言葉があります。

男子たる者は、自分の真価をよくわかってくれる人のためになら、命をなげうってでも尽くすという意味です。これは他者から強制されて行うものではなく、自発的に行うものであり、自分の目的と使命を見失っていないので「過剰適応」や心身のバランスを崩す原因にはなりえません。

人は、他者から与えられた価値観や役割の中で「こうであるべき」ということに、がんじがらめになったとき、自分というものを見失っていきます。

「社会的な自分」ではなく「わたし自身」を取り戻していくことが大切です。そのために必要なものが「内臓感覚」と言ったのは、カウンセリングの神様と呼ばれる臨床心理学者カール・ロジャーズでした。

ロジャーズは、一人ひとりが自分の「内臓感覚(内なる実感)」に従い、自由に生きることを徹底的に尊重しました。

しかし、内臓感覚に従うとは、知性や理性を捨てて「野生に帰れ」という態度ではありません。公共の場で騒いだり、客だからと、えばり散らし、暴言や暴力を行うカスタマーハラスメント、迷惑系YouTuberなど個人主義をはき違えたものは論外です。

戦後教育は、権利の尊重を過度に重視してきた結果、個人の権利のみを主張する弊害が目立つようになってきました。権利と義務は表裏一体の関係にあることを踏まえ、権利とともにバランスのとれた公共の精神、つまり社会の中の自分としての責務を自覚することが、心身のバランスを保つことにもつながると思います。

レジリエンス

レジリエンスとは、一般的には困難をしなやかに乗り越え、回復する力とされています。

BASIC Ph(ベーシックピーエイチ)の提唱者であるイスラエルの心理学者で、精神的外傷の専門家、ムーリ・ラハド博士は、トラウマ的な経験をした人が、「そこからどう立ち直っていくか」に注目しました。

彼はレジリエンスを「繰り返し挫折に見舞われたとしても、危機状況に耐え、そこから回復する継続的な力」であると言っています。

BASIC Phは、紛争が絶えないイスラエルで、1980年代からムーリ博士が長い間トラウマを体験した人々を支援してきた中で生まれました。

それは、「トラウマを体験した人すべてがPTSD(心的外傷後ストレス障害)になるわけではない」ということです。約8割の人は、トラウマを体験した後、自然に回復していくことがわかっています。

ムーリー博士は、「人はどのように回復していくのか」と言うことに着目しました。その研究の中から生まれたのが、BASIC Phです。

BASIC Phとは

人が持つ回復力のすばらしさに着目したことで、絶望の中の希望につながる研究なのです。

Belief(信念)・・・政治的姿勢や宗教的信念、自分の信念や考え方、また自分自身の価値を信じることで対処し回復する。

Affect(感情)・・・泣く、怒る、笑うなど感情を表現し、発散することで対処する。感情を感じたり表現する一方で、感情や感覚の回路をオフにして、何も感じない「麻痺」の状態で困難に対応することも「Affect(感情)」の回復プロセスに含まれます。

Social(社会)・・・人や社会とのつながりを使うチャンネルです。誰かに相談したり、同じ悩みを抱える人と交流する、仕事を引き受け、社会的役割を担う等で心を支えます。逆に人との距離を取って心を休ませることも、含まれます。

Imagination(想像)・・・想像力を用いてストレスを乗り越えることです。イマジネーションの力を使って、物事の見方を変える力を活用します。楽しいことなどを空想・夢想することはもちろん、映画や漫画、ゲームなどの世界に没入することも含まれます。また、創造的なことを行ったり、芸術作品を鑑賞することも含まれます。

Cognition(認知)・・・認知は情報を収集する、自分がどう行動すべきかを考える、優先順位をつける、戦略を練るというような、問題解決に向けて動くプロセスです。

Physiology(身体)・・・身体にアプローチすることでストレス発散をするアプローチです。「身体を動かす」という健康的な運動のほかに、酒やタバコ、スイーツなどの嗜好品を楽しむことで、心に変化が起こるようなものも含まれます。ストレスが発熱や腹痛など身体症状として出てしまう人も身体の反応を使って対処しているといえます。

人それぞれ性格が違う様に、これら6つのチャンネルに対し、得意な回復の方法は人それぞれなので、自分に合ったものを選ぶことが大切です。

身体と調和する生き方

「地に足がつく」「肚が据わる」といったように、身体に関する多くの慣用句があります。体の感覚を大事にすることは、「身体性」と調和して生きていくことにつながり、本当の「ゆたかさ」に通ずるのです。

現代人は、頭(脳)が一番上位の存在であり、身体はそれに従う下位の存在であると思う人が多いのではないでしょうか。

しかし、直近の研究では、内受容感覚という身体的な情報が、感情の元となっており、「私が私である」という「自己の感覚」の大元であり、更には意思決定の源泉になっていることがわかっています。

頭と身体とは私たちが考えている以上に、ずっと対等な関係なのかもしれません。

頭を使って「考える」ことばかりして、「感じる」ことをおろそかにせず、身体の声に耳を傾けることが大切です。

まとめ

文化人類学者のヨハン・ホイジンガは「遊びこそが人間活動の本質」と考え、人類のあらゆる文化は、全て遊びの中から生まれたと主張しました。

人は逆境に追い込まれて、シリアスになればなるほど、無力感や絶望感を感じ凍りついて、氷のモードに入ります。

「シリアスに対抗できるのはユーモアである」と言えるのです。

チャールズ・チャップリン

最後にチャールズ・チャップリンの名言をご紹介いたします。

人生は近くで見ると悲劇だが​、遠くから見れば喜劇である

                         (チャールズ・チャップリン ​Charles Chaplin​)

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肩こり・腰痛・坐骨神経痛・椎間板ヘルニア・ぎっくり腰・めまい・頭痛・脊柱管狭窄症・自律神経失調症・五十肩・膝の痛み、股関節の痛み等、様々な症状の根本原因を施術する整体治療院 。あん摩・マッサージ・指圧師の国家資格取得者「札幌 キネシオロジーの谷井治療室」です。

全国どこでも遠隔施術も承ります。https://www.taniithiryousitu.com/distant-healing/
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