不眠の歴史
今回のテーマは、国民病ともいわれる「不眠症」についてです。ご紹介する書籍は「睡眠障害」西野精治(にしのせいじ)先生のご著書で、角川新書より出版されております。


上の絵は平安時代末期から鎌倉時代の初期に描かれた『病草紙(やまいのそうし)』という絵巻物の中に出てくる「不眠の女」という絵です。
この絵の内容を現代語訳すると、大和国(やまとのくに)葛木(かずらきの)下郡(しもごおり)の片岡というところに女がいて、その女は「どこにも痛みがないのに夜になっても眠ることができない。夜通し起きているのは、どんなことよりも耐え難い」と言ったそうです。
理由はわからないけど、眠れない。まさに不眠の症状です。
『病草紙』は、800年以上も前に描かれたもので、少なくとも、その頃から日本には睡眠障害があったということがわかります。
科学者たちが睡眠を研究のテーマとして掲げるようになったのは、1953年にレム睡眠が発見されてからでした。実は、睡眠の研究は、まだ100年にも満たない学問のため、わからないことだらけなのです。
睡眠障害が少しずつ解明されている一方で、不眠に悩まされる人たちは格段に増えてきています。厚生労働省の調査によると5人にひとりが「睡眠で休養がとれていない」「何らかの不眠がある」と言います。
世界でも睡眠時間が最も短いとされる日本人の睡眠の悩みは、このままにしておくと、今後さらに増え、睡眠障害による弊害も増す可能性があります。
睡眠と覚醒を司る二つのシステム
睡眠には2種類あり、ひとつは、脳も体も休息するノンレム睡眠。もうひとつは、休息しているけれど、脳は活動しているレム睡眠です。


ノンレム睡眠は深い眠りで、明け方に近づくと浅く、短くなります。レム睡眠は浅い眠りで、明け方に近づくと長くなる。
睡眠周期は、常に一定というわけではありません。寝つきが悪かったりすると、睡眠不足になり深いノンレム睡眠が朝方に出るケースもあります。
いまの時代、不登校の学生が増えているようです。その受け皿として、定時制や通信制の学校の需要も伸びています。
不登校の原因は様々です。文部科学省の令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要によりますと、小中学校における不登校の状況調査で、不登校の原因で一番多いのが「生活リズムの乱れ、遊び、非行」と「無気力、不安」で、これらの原因の占める割合が不登校生徒の58.9%に上ります。
この中に、睡眠障害が関わるものもあるのではないでしょうか。私の治療院にも、朝起きられないため学校に行けないという悩みを持った学生さんが来院することがあります。カイロプラクティックやオステオパシーで全身のバランスを整え、自律神経やホルモンバランスが整うと、生活リズムが改善することもあるのです。
スマホやタブレットの普及により、生活リズムが乱れ、睡眠に支障をきたしているケースも多いと推察します。札幌市の高等学校では、朝起きられない生徒のために、昼間定時制というクラスを設けているところもあるくらいです。
聖書には次のような聖句があります。
「泣きながら夜を過ごす人にも、喜びの歌と共に朝を迎えさせてくださる」(詩篇30章5節)
聖書的には、一日は夜から始まるのです。涙するような辛いことでも、一晩ぐっすり眠ったら、喜びの朝を迎えることができるのです。
やはり心と体を整えるためには、良い睡眠が欠かせません。
睡眠の5つの役割
睡眠と覚醒が脳の自発的な活動であり、次のような役割があることがわかっています。
- 脳と身体に休息を与える・・・最初の深いノンレム睡眠のときに体を修復する成長ホルモンが活発に分泌されます。
- 記憶を整理して定着させる・・・インプットされた脳の情報が、睡眠周期を繰り返すことで整理され記憶として定着する。
- 自律神経とホルモンバランスを整える・・・成長ホルモンは、自律神経のバランスも整えます。
- 免疫力を上げる・・・睡眠不足になると、感染症にかかりやすいことがわかっています。
- 脳の老廃物を除去する・・・グリンパティック・システムがあります。体のなかの老廃物は、リンパ系に集められ、血管を通って尿として体外に排出されます。睡眠中は、覚醒時の4~10倍も活発に脳のクリーニングが行われています。
この様に睡眠には、心と体を整える役割があります。昼間の活動で傷ついた心と体を修復し、散らかった記憶を整理整頓し、あくる日からの活動に向け心も体も能力もさらにバージョンアップさせているのです。
そのため、睡眠不足では、心も体も疲弊し、とてもではないが人生の荒波で戦える状態ではなくなるのです。
漫画家の水木しげるさんは、次のような言葉を残しています。
「人間は寝ることによってかなりの病が治る。私は“睡眠力”によって傷とか病気をひそかに治し、今日まで“無病”である。私は“睡眠力”は“幸福力”ではないか、と思っている」
睡眠不足で世界的大惨事が起こる
睡眠不足や睡眠障害が原因ではないかと考えられている事故に次のようなものがあります。
- スリーマイル島原子力発電所事故(1979年、アメリカ)
- 米スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故(1986年)
- チェルノブイリ原発事故(1986年)
- エクソンバルディーズ号原油流出事故(1989年、アラスカ)
- 2003年、JR西日本の山陽新幹線の運転士が約8分間にわたり居眠り運転
- 2012年、関越自動車道を走行するツアーバスの運転手が居眠り運転で、防音壁に激突し、乗客ら46人が死傷するという大事故を起こす
寝不足や睡眠障害は、認知・判断・操作の全てにわたって悪影響を及ぼすことがわかっています。
「フェーズ理論」をご存知でしょうか。「フェーズ理論」とは人間の意識レベルを「0~4」の5段階に分けます。人間の信頼性は意識レベルと関係が深く、主に安全を重んじる職場・作業などで重用されます。
- フェーズ0:脳が全く動いていない状態。意識不明、無意識、睡眠中など。
- フェーズ1:意識がぼやけた状態。疲労時、居眠り運転をしている状態など。
- フェーズ2:正常でリラックスした状態。休憩時、安静状態などが相当し、だらだらやボーっとしている状態もこれに当たる。行動上は間違いやミスを起こしやすい。
- フェーズ3:脳は好調に働いている状況で、仕事に集中している時であり、作業ミスなどは起こしにくい。但し本状態の維持は難しく、2の状態に陥りやすい。
- フェーズ4:所謂過緊張状態で、緊急事態に直面したり頭に血が上ってしまい脳がパニックを起こしている状態です。このような状態を避けるために、避難訓練に代表される様に、シュミレーションを通して経験値を積むなどの予防策が必要です。
私が若かりし頃、ある工場に研修に行ったことがあります。工場の壁に「フェーズ 3で安全」の標語が掲げられていました。労働災害を防止するために、「フェーズ 3」の意識を維持しましょうということです。
この「フェーズ 3」の状態を長時間維持することは非常に困難です。そのための良いコンディションを保つために最も大切な要因が「睡眠」なのです。
睡眠と病気の関係
カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究で導き出された睡眠時間と死亡率の関係では、最も死亡率が低かったのは、睡眠時間が7時間の人たちでした。
日本でも同じような調査が名古屋大学で行われ、2004年に発表された「睡眠時間と死亡リスク」に関する大規模調査によると、死亡率が最も低かったのは、睡眠時間が約7時間の人たちだったという報告があります。
また、睡眠障害が糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病のリスクを高めることが明らかになっています。不眠症の人は、糖尿病になるリスクが1.5~2倍と高くなるのです。
ほかにも、わずかな寝不足でも、肥満へのリスクを高めることがわかっています。
国際的な総合化学ジャーナル『nature』に、「寝ないと動脈硬化になる」という記事が掲載され、なかでも注目されたのは、全身性の炎症についての記事でした。
規則正しく十分な睡眠を取れていれば、体に炎症が起こることを抑えられるというのです。慢性炎症は、あらゆる病気の元となりますので、これを抑制できるということは、睡眠がいかに健康に影響を与えるかを物語っています。
自覚できる睡眠障害と自覚できない睡眠障害
自覚できるものは、「不眠」「過眠」「睡眠・覚醒のリズムの乱れ」「就寝時の異常感覚」などですが、自覚できないものは、「いびき」「無呼吸」「睡眠時の異常行動(寝言、寝ぼけ、不随意運動)」などです。
これらは全て睡眠障害と関係しますが、潜在的な睡眠障害の患者は、約30000万人以上いてもおかしくないと考えられています。
尚、早朝に目が覚めてしまう早朝覚醒は、うつ病の特徴でもあるので注意が必要です。
そして、日本人の5人にひとりが、「睡眠で休養がとれない」「何らかの不眠がある」と回答しています。60歳以上になると、約3人にひとりが睡眠問題で悩んでいるのです。
よい眠りをとるには


メラトニンはサーカディアンリズム(概日リズム)における光との関係で重要な役割を担うホルモンです。
メラトニンは、光の刺激によって分泌が抑制されます。朝になって網膜にある「メラノプシン」という受容体から「光が届いた」という情報が、松果体に伝達されると、メラトニンの分泌はストップします。
昔はサーカディアンリズムに影響を与えるのは、太陽光でしたが、人工的な光ももちろん影響します。照度や照射時間にもよりますが、夜間に強い光を浴びるとメラトニンの合成を阻害することが、はっきりしています。
このメラトニンが正常に分泌されなくなると、眠る準備が整わないため、不眠の症状が現れるようになります。
実は、アメリカではメラトニンはサプリメントとしてドラッグストアなどで販売されています。
しかし、日本ではメラトニンのサプリは認可されていませんのでご注意ください。
薬に頼らない睡眠
不眠症を解消するには、眠れないからからといって、強制的に眠らせてくれる薬に頼るよりも、眠れるように生活を改善することが大切です。
睡眠障害が生活習慣病と言われるのは、眠れなくなったことも、眠れるようになることも、生活習慣が背景にあるからです。
次のような習慣がないかどうかチェックしてみてください。
- カフェインの多い飲み物を夕方以降もとってしまう
- 就寝直前にお風呂に入る
- 寝る直前まで、部屋を明るくしている
- 寝床にスマートフォンを持ち込む
よもぎ枕
よもぎは快眠にとっても効果がありますので、よもぎ枕についてご紹介いたします。よもぎには香り成分であるシネオールが含まれており、リラックスや安眠効果があると言われています。
よもぎを摘んできて、天日干した後、葉の部分を布の子袋に入れ枕に乗せるか、まくらカバーに入れておきます。
たったこれだけで、よもぎの気に癒され心地よい眠りにいざなわれるのです。ぜひお試しください。
睡眠は無意識におまかせ
より良い眠りに入れないのは、意識から無意識へのバトンタッチがうまくいっていないからです。
目が覚めて起きているときは、顕在意識が働き、この世を生きています。
逆に、眠っているときは、無意識の状態になり、あの世に行っているようなものです。
この世の現実社会では、仕事、人間関係、お金、健康問題など様々な悩みや心配事があります。仏教ではこれらの悩み苦しみを、「煩悩」と呼びます。
「煩悩とは、よく心をして煩わしめ、よく悩みをなす。故に名付けて煩悩となす」(龍樹菩薩)
この煩悩を抱え握りしめたままでは、意識から無意識へのバトンタッチが行われず、良く眠ることができません。
この世のことに執着していては、あの世(睡眠)には行けません。よく、「生き様が、死に様」と言いますが、「良き生」は「良き死(睡眠)」を迎えるためにはとても大切なのです。
マハトマ・ガンディーも次のような言葉を残しています。
「毎晩眠りにつくたびに、私は死ぬ。そして翌朝目をさますとき、生まれ変わる。」


上の絵画は横山大観の「無我」です。禅の悟りの境地を童子を題材にする事で、子の姿から純真で無心さを描いた有名な作品です。この様な無邪気な子供には、不眠症はあまり見られないと思います。
しかし、大人になるにつれて無邪気とはいかなくなり、不眠症も増えていしまいます。
ここで問題となるのが、何でもかんでも、自分(我)で解決しようと力まないことです。仕事も人間関係もお金や健康上の悩みも、全て無意識に任せてしまうのです。
あらゆる問題が、寝ている間の無意識の働きによって、最善の方向に向かうのだと自分に暗示をかけ、無意識さんに全てをお任せして、心やすらかに眠ることです。
すると不思議なことですが、夢の中でその解決策に出会ったり、よく眠った後、良いアイデアが泉のごとく湧き出たりと、人生が好転することもあるのです。
無意識さんを信頼し、お任せすることで、心が落ち着き、安らぎの中で眠りにいざなわれると思います。
もう一つ言えることは、現代人は何でもかんでも詰め込み過ぎなのではないでしょうか。私が若い頃は、「四当五落(しとうごらく)」という言葉があって、受験において、睡眠時間を四時間にしたら合格でき、睡眠時間を五時間にしたら不合格になると言われていました。
今では、四当五落は否定され、実際は十分な睡眠をとって勉強して受験するのが良いとされています。
もともと日本人は、「余白の美」という感性を持っていました。先ほどご紹介した横山大観の絵画もそうですが、日本美術の歴史の中で、画家たちが大切にしてきたことがあります。それは「余白」に詩情を込めるということです。
「描かない」ことで、余白に大きな意味を込め、空間の「遠さ」や「広がり」を表現しているのです。
人の生活も静寂や余白、間というものが大切だと思います。日中活動している充実の時間は、夜休んでいる余白の時間があってのことです。
この様な思いをもつことで、睡眠の重要性を再認識してみてはどうでしょうか。
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