「ストレスが原因ですね」と言われても、納得できない方へ

顎関節症で歯科や医療機関を受診すると、
「ストレスが原因かもしれませんね。」
と言われた経験のある方は少なくありません。
しかし、多くの方はその言葉だけでは納得できないのではないでしょうか。
「ストレスなら誰にでもある。」
「仕事を辞めれば治るの?」
「気持ちの問題だと言われているようで腑に落ちない。」
このような疑問を抱くのは、ごく自然なことです。
実際、ストレスという言葉は非常に幅広く使われますが、「なぜストレスが顎の痛みや口の開けづらさとして現れるのか」まで説明されることは多くありません。
谷井治療室でも、ストレスを単なる精神論として捉えているわけではありません。
私たちは、人間を「心」と「身体」に分けて考えるのではなく、一つの生命として捉えることを大切にしています。
東洋には古くから「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。
心と身体は別々のものではなく、互いに影響し合う一つの存在であるという考え方です。
ストレスを受ければ、心だけでなく身体にも変化が現れます。
反対に、身体の緊張や姿勢の乱れ、噛みしめや顎の不調が、心の状態や感情、自律神経に影響を与えることもあります。
つまり、心が身体に影響し、身体もまた心に影響する。
この双方向のつながりを理解することが、慢性的な顎関節症を考えるうえで重要な鍵になると、私たちは考えています。
本ページでは、現代医学の「生物・心理・社会モデル」、東洋の「心身一如」、そして30年以上の臨床経験を踏まえながら、ストレス・脳・身体がなぜつながるのかを、顎関節症という視点から分かりやすく解説していきます。
心身一如とは何か ― 心と身体は一つの生命として働いている
私たちは普段、「心」と「身体」を別々のものとして考えがちです。
例えば、
「身体は健康だけれど、心が疲れている。」
あるいは、
「気持ちは元気だけれど、身体がついていかない。」
このような表現は日常でもよく使われます。
しかし、本当に心と身体は切り離して考えられるものなのでしょうか。
東洋には古くから「心身一如(しんしんいちにょ)」という考え方があります。
これは、心と身体は別々に存在しているものではなく、一つの生命として互いに影響し合っているという思想です。
つまり、心の状態は身体に表れ、身体の状態もまた心に影響を及ぼします。
私たちは誰でも、それぞれ異なる個性や価値観を持っています。
物事の受け止め方も違えば、考え方や感じ方も違います。
野口整体の創始者、野口晴哉は、このような人それぞれの身体的・心理的な偏りを「体癖(たいへき)」という概念で説明しています。身体の重心や姿勢の偏りと、感受性や価値観、行動傾向には一定の関係があるという考え方です。
もちろん、これは「この人はこういう性格だから良い・悪い」という話ではありません。
野口整体でも、体癖を理由に人を決めつけたり、優劣をつけたりすることは本来の目的ではないとされています。
谷井治療室でも同じように考えています。
人には誰でも、その人なりの「心癖」があります。
「こうあるべき」
「失敗してはいけない」
「期待に応えなければならない」
「人に迷惑をかけてはいけない」
このような価値観そのものが悪いわけではありません。
しかし、その思いが強くなりすぎたり、現実との間に大きな葛藤が生まれたりすると、それはストレスとして心だけではなく身体にも影響を及ぼすことがあります。
例えば、無意識に歯を食いしばる、肩に力が入る、呼吸が浅くなる、首や顎の筋肉が緊張するといった変化は、その一例です。
反対に、慢性的な痛みや顎関節の不調が続くことで、不安や焦りが強くなり、自律神経のバランスが乱れることもあります。
つまり、
心が身体に影響し、身体もまた心に影響する。
これが「心身一如」という考え方です。現代医学においても、心と身体が相互に影響し合う関係は「心身相関」として捉えられています。
顎関節症を「顎だけの病気」として見るのではなく、一人の人間全体のバランスの中で捉えることが、改善への第一歩になると私たちは考えています。
ストレスとは何か ― 「こうあるべき」が生み出す心と身体の緊張
私たちは日常の中で、「ストレス」という言葉を当たり前のように使っています。
仕事、人間関係、家庭、病気、お金、将来への不安など、その原因はさまざまです。
しかし、同じ出来事に直面しても、大きなストレスを感じる人もいれば、それほど気にならない人もいます。
つまり、ストレスとは出来事そのものではなく、その出来事を自分がどのように受け止めるかによって大きく変わります。
私たちは誰でも、それぞれ異なる価値観や信念を持って生きています。
「こうあるべき。」
「こうしなければならない。」
「失敗してはいけない。」
「人に迷惑をかけてはいけない。」
このような価値観そのものは決して悪いものではありません。
責任感や誠実さ、向上心など、人が社会の中で生きていくために大切な心の働きだからです。
しかし、その思いが強くなり過ぎると、現実との間に葛藤が生まれます。
「思うようにならない。」
「期待どおりにいかない。」
「受け入れられない。」
そのような状態が続いたとき、私たちはストレスを感じます。
約2500年前、お釈迦さまは、
「人生は苦である」
と説きました。
この「苦」とは、「人生は苦しいことばかり」という意味ではありません。
現代の言葉で表現するならば、「人生は思いどおりにならないことの連続である」という意味に近いでしょう。
生まれること、老いること、病気になること、大切な人との別れ、人間関係の悩み──人生には、自分の思いどおりにならない出来事が数多くあります。
つまり、生きるということは、多かれ少なかれ、常に何らかのストレスとともにあるということでもあります。
一方、ストレス学説を提唱したハンス・セリエは、
「ストレスは人生のスパイスである」
という言葉を残しています。
ストレスは決して悪者ではありません。
適度なストレスは、人が成長し、新しい環境へ適応するために欠かせない働きでもあります。
大切なのは、ストレスをなくすことではありません。
人生からストレスを完全になくすことはできないからです。
重要なのは、ストレスに対して心と身体がどのように反応し、それとどのように付き合っていくかということです。
東洋には古くから「心身一如」という考え方があります。
心と身体は別々に存在するものではなく、一つの生命として互いに影響し合っています。
心が緊張すれば身体も緊張し、身体の状態もまた心へ影響を与えます。
また、人にはそれぞれ物事の受け止め方や感じ方の傾向があります。
それは善悪や優劣ではなく、一人ひとりが持つ個性であり、「心癖」と呼べるものです。
谷井治療室では、このような心癖を否定することはありません。
人間は誰一人として完璧ではなく、誰もが自分なりの価値観や思考の癖を持ちながら生きています。
だからこそ、ストレスを単なる「悪いもの」と捉えるのではなく、生きることそのものに伴う自然な反応として理解することが、心身を見つめ直す第一歩になると私たちは考えています。
身体は本来、元へ戻る力を持っています ― 「素直な身体」を取り戻すという考え方
私たちの身体は、とても賢くできています。
人生には、さまざまな出来事があります。
仕事や家庭、人間関係、病気、不安などによって心身が揺さぶられると、身体はその状況に適応しようとして筋肉の緊張や姿勢、呼吸のパターンなどを変化させます。
これは異常な反応ではありません。
自分自身を守るために身体が選んだ、ごく自然な適応反応です。
そして、本来その適応は一時的なものです。
ストレスが過ぎ去れば、身体は再び力が抜け、自然な状態へ戻ろうとします。
この「元へ戻る力」こそが、人間が本来持っている大切な生命の働きです。
しかし、強いストレスが長く続いたり、同じような緊張を繰り返したりすると、身体は適応した状態を維持したままになってしまうことがあります。
すると、一時的だったはずの緊張が身体の新しい習慣となり、本来の柔軟性が少しずつ失われていきます。
身体は硬くなり、姿勢の偏りも固定化し、次に新たなストレスが加わったときにも、以前のようにしなやかに対応できなくなります。
顎関節症をはじめ、肩こり、首こり、頭痛、腰痛などの慢性的な症状は、このような状態と関係していることがあります。
私たちは、このような身体を単純に「歪んでいる身体」とは考えていません。
その身体は、その人がこれまでの人生を生き抜くために、一生懸命適応してきた結果だからです。
言い換えれば、そこには身体なりの理由があります。
だからこそ谷井治療室では、身体を無理に矯正したり、力で正そうとしたりすることを目的にはしていません。
目指しているのは、身体が本来持っている柔軟性を取り戻し、必要がなくなった緊張を自然に手放せる状態へ導くことです。
昔から日本には、
「柳に風」
という言葉があります。
柳は風に逆らいません。
強く抵抗することもありません。
風が吹けばしなやかに揺れ、風が止めば何事もなかったように元の姿へ戻ります。
私たちの身体も、本来はそのような性質を持っています。
ストレスを受けても、その都度しなやかに適応し、必要がなくなれば自然とニュートラルな状態へ戻る。
そのような身体こそが、本来の健康な状態ではないでしょうか。
谷井治療室では、そのような身体を「素直な身体」と呼んでいます。
一方で、長年の緊張や適応反応が固定化し、身体が常に同じ反応を繰り返してしまう状態を、私たちは「自己主張している身体」と表現しています。
ここでいう「自己主張している身体」とは、身体が長年積み重ねてきた防御反応や適応のパターンが固定化した状態を指しています。
私たちの施術は、身体からのメッセージを力で押さえ込むことではありません。身体が安心して力を抜き、本来備わっている回復力と柔軟性を取り戻せるようにお手伝いすることです。
「自己主張している身体」から「素直な身体」へ。
それが、谷井治療室が目指す施術のあり方です。
なぜストレスは顎に現れるのか ― 脳・自律神経・筋肉のつながり
ストレスは目に見えるものではありません。
しかし、ストレスを受けると、私たちの身体にはさまざまな変化が起こります。
その中心となるのが脳と自律神経です。
私たちは強いストレスや不安、緊張を感じると、脳は身体を守るために「警戒モード」へ切り替えます。
すると交感神経が優位になり、心拍数や血圧が上がり、呼吸は浅く速くなります。
同時に、全身の筋肉も無意識のうちに緊張し始めます。
これは危険から身を守るために、人間が本来備えている正常な防御反応です。
ところが、その緊張が長期間続くと、身体は力を抜くタイミングを失ってしまいます。
特に顎は、その影響を受けやすい部位の一つです。
考え事をしているときや仕事に集中しているとき、「気づいたら奥歯を噛みしめていた」という経験はないでしょうか。
また、上下の歯が軽く触れたままになっている癖は、TCH(Tooth Contacting Habit:上下歯列接触癖)と呼ばれています。
本来、安静時には上下の歯はわずかに離れているのが正常な状態ですが、TCHが続くと咀嚼筋は休む時間を失い、慢性的な緊張状態になってしまいます。
さらに、睡眠中に無意識に強く歯を噛みしめたり、歯ぎしりをしたりする現象はブラキシズムと呼ばれます。
本人には自覚がないことも多く、朝起きたときの顎の疲労感や痛み、歯のすり減りなどから初めて気づく方も少なくありません。
このようなTCHやブラキシズムが続くと、咬筋や側頭筋だけでなく、首や肩の筋肉にも緊張が広がり、顎関節には繰り返し機械的な負担が加わります。
その結果、
- 顎が痛む
- 口が開けづらい
- 顎がカクカク鳴る
- 朝起きると顎が疲れている
- 首や肩のこり、頭痛を伴う
といった症状につながることがあります。
さらに、痛みや違和感が続くと、「また痛くなるのではないか」「口を開けても大丈夫だろうか」といった不安が生まれます。
その不安は再び脳の警戒反応を強め、自律神経や筋肉の緊張を高めます。
すると、TCHやブラキシズムも起こりやすくなり、顎関節への負担はさらに大きくなります。
このように、
ストレス → 脳・自律神経の緊張 → 筋肉の緊張 → TCH・ブラキシズム → 顎関節への負担 → 痛み → 不安 → さらに脳・自律神経が緊張する
という悪循環が形成されてしまうのです。
そのため、顎関節症を改善するためには、顎だけを治療するのではなく、脳・自律神経・筋肉・そして日常の無意識の癖まで含めて、一つのつながりとして考えることが大切になります。
しかし、臨床の現場では、このような筋肉や自律神経、ブラキシズムやTCHの説明だけでは十分に理解できないケースも少なくありません。
生活環境が改善しても食いしばりが続く方。
十分に休養を取っても症状が改善しない方。
検査では異常が見つからないにもかかわらず、慢性的な痛みだけが残る方。
このようなケースでは、「現在感じているストレス」だけではなく、脳が過去の経験をどのように学習し、心身の反応として繰り返しているのかという視点も重要になります。
次章では、脳の学習や記憶と身体反応のつながりという視点から、慢性的な顎関節症について考えていきます。
脳はなぜ痛みや緊張を繰り返すのか ― 記憶と「誤作動」の関係
私たちの脳には、経験したことを学習し、記憶する働きがあります。
例えば、一度熱いものに触れてやけどをすれば、次からは同じものに不用意に触れないよう注意します。
転倒して強い痛みを経験すれば、再び転ばないように身体の動かし方を変えることもあります。
このように、痛みや危険を記憶することは、同じ危険を避け、生命を守るために欠かせない脳の働きです。
つまり、脳が痛みや緊張を記憶すること自体は、決して異常ではありません。
症状だけでなく「反応の仕方」も学習されます
脳が学習するのは、出来事そのものだけではありません。
そのときに感じた不安や恐怖、身体の緊張、呼吸の変化、歯の食いしばりなども、一つの反応の組み合わせとして学習されることがあります。
例えば、仕事で強い緊張を感じたときに、無意識に奥歯を噛みしめていたとします。
このような状態が繰り返されると、
緊張する
↓
歯を食いしばる
↓
顎や首の筋肉が硬くなる
という反応を、脳が一つのパターンとして学習する可能性があります。
その結果、似たような場面に直面しただけで、本人が意識するよりも先に身体が緊張し、食いしばりやTCHが起こることがあります。
つまり、症状が繰り返される背景には、顎関節や筋肉の状態だけではなく、脳が身につけた反応のパターンが関係している場合もあるのです。
意識では「大丈夫」と分かっていても身体が反応する理由
患者さんの中には、
「もう気にしていないはずなのに、なぜ身体が反応するのでしょうか」
と疑問に思われる方もいます。
私たちが自覚できる思考や感情は、心身の働きのすべてではありません。
頭ではすでに解決したと思っていても、身体に関係する反応のパターンが、無意識のうちに続いていることがあります。
例えば、人前で話すことに不安はないと思っていても、実際にその場へ立つと肩に力が入り、呼吸が浅くなり、歯を食いしばってしまうことがあります。
本人が意識的に緊張しようとしているわけではありません。
過去の経験などをもとに、脳がその場面を警戒すべき状況として捉え、身体を守る反応を先回りして起こしていると考えることができます。
このような反応は、もともと身体を守るために身についたものです。
しかし、現在の状況には必要のない反応が繰り返されるようになると、顎や首の筋肉は十分に休むことができず、TCHやブラキシズム、顎関節への負担につながる可能性があります。
意識では「大丈夫」と分かっていても、無意識の身体反応が続いている。
これが、ストレスの原因となった出来事が過ぎた後も、痛みや緊張が繰り返される理由の一つです。
PCRTでいう「誤作動記憶」とは
谷井治療室で行っているPCRT(心身条件反射療法)では、現在の状況には必要のない心身の反応が、無意識に繰り返される状態を「誤作動記憶」という言葉で捉えています。
ここでいう「誤作動」とは、脳が壊れている、記憶が間違っている、心に問題があるという意味ではありません。
もともとは、その人を守るために身についた正常な適応反応です。
しかし、その反応が現在も続くことで、筋肉の緊張や食いしばりなどが繰り返され、結果として顎関節への負担につながることがあります。
例えば、
ストレスや特定の状況
↓
脳が無意識に反応する
↓
顎や首の筋肉が緊張する
↓
TCHや食いしばりが起こる
↓
顎関節に負担がかかる
という反応のパターンです。
PCRTでは、身体に現れる反応を手がかりに、その人の心身にどのような反応パターンが形成されているのかを確認しながら施術を進めます。
このページではPCRTの詳しい理論や施術方法には踏み込みませんが、顎関節症を顎だけの問題として捉えるのではなく、ストレス・脳・無意識の身体反応まで含めて考えるアプローチがあるということを知っていただければと思います。
ストレス性の顎関節症に対する谷井治療室の考え方
ここまでお伝えしてきたように、顎関節症には顎そのものの問題だけでなく、ストレス、自律神経、筋肉の緊張、食いしばりやTCHなど、さまざまな要素が関係しています。
そのため谷井治療室では、顎だけを施術するのではなく、一人ひとりの心身全体を一つのつながりとして評価することを大切にしています。
特に、十分な検査を行っても明らかな異常が見つからない場合や、一般的な治療では改善が思うように進まない場合には、脳が学習した反応パターンや、ストレスに対する心身の反応にも目を向けます。
そのような心身のつながりに着目した施術法の一つが、PCRT(心身条件反射療法)です。
PCRTは、ストレスによって形成された心身の反応パターンに着目し、身体の反応を手がかりに心身の状態を評価しながら施術を進めていく日本で開発された療法です。
谷井治療室では、一人ひとり異なる心身の反応パターンを丁寧に確認しながら、その方に合わせた施術を行っています。
PCRT(心身条件反射療法)の詳しい考え方や施術方法については、こちらのページで詳しくご紹介しています。
👉頭の位置と咬み合わせの関係|頚椎の運動が咬合に与える影響の詳細はこちら▶
👉全身のバランスと顎関節の深い関係|整体から見た噛み合わせと身体のつながりの詳細はこちら▶
👉顎関節症を東洋医学から考える|「顎」ではなく生命全体を診るという視点はこちら▶
参考文献
- National Academies(2020)
→ 現代の顎関節症の基本的な考え方(生物・心理・社会モデル)の根拠。 - Journal of Dentistry(2025 Systematic Review) → ストレス・不安・ブラキシズム・顎関節症との関連。
- Bruxism Consensus Statement(2020) → 食いしばり・歯ぎしりと心理社会的要因についての国際的コンセンサス。
料金
| 区分 | 金額(税込) |
|---|---|
| 初診料(初回のみ) | 3,300円 |
| 通常施術料 | 7,700円 |
| 中学生以下 | 3,850円 |
※施術時間は 約30〜45分(症状により前後します)
※完全予約制・当日予約も可能です
※お支払いは、現金かPayPayになります。
札幌谷井治療室
〒064-0809 札幌市中央区南9条西4丁目3-15AMSタワー中島1503号室
営業時間
月~金 9:30~19:30
日 9:30~17:00
定休日 水曜・土曜・祝祭日
アクセス:地下鉄南北線 中島公園駅:徒歩1分
